昨年度に引続き、二つの異なる視点から研究を進めた。一つは全長のStaphylococcal nuclease(以下SNase)を用いた変性の構造的側面の解明であり、他はfoldingのよいモデル系であるC末より13残基を欠失したフラグメントを用いたunfold状態の構造の詳細な記述である。 X線溶液散乱から得られる慣性半径及びKratkyプロットの積分値が変性のよい指標となることを既に昨年度に明らかにした。これらの物理量から得られる変性曲線は、蛍光やCD等分光測定によるものと異なる場合のあることが明らかになった。Class Iに属する変異体では変性曲線の傾きはX線と分光測定では同一であるのに対し、変性の中点の尿素濃度がX線で見た方が高濃度側にシフトしていた。一方野生型SNaseでは両測定間に顕著な差は見られない。この事実は、通常は高度な協同性のため分離不可能な二次構造などの局所的な構造の消失と、コンパクトな全体の形状消失が、実は必ずしも対応していないことを示している。foldin際は、コンパクトな形状にまとまってから二次構造が形成されるというモデルを支持し、これまで支配的であった二次構造が形成された後に三次構造が形成されるというモデルを否定する重大な観測結果である。 フラグメントについてはアミノ酸置換の効果についてより詳細な測定を行った。フラグメントにアミノ酸置換を施すとClass Iに属する置換体は野生型よりコンパクトな形状となり結晶構造とは異なる何らかの内部構造が出現すること、ClassIIに属するものは鎖状高分子様になることが明らかになった。これは、アミノ酸置換の効果がunfold状態にも現れることの証明である。またフラグメントの中性子非弾性散乱測定により、foldingに伴い獲得する振動モ-ドや凍結するモ-ドの存在が明らかに示された。今年度は定量的な解析を行う予定である。
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