生物時計には、周期は温度によらず一定であるという他の生物リズムとな異なる特有の性質、温度補償性がある。申請者は、この温度補償機構を生物時計の分子機構解明の鍵とみなして、温度上昇によって機能低下を起こす生化学的過程を、光情報伝達とエネルギ-獲得系の中に求る作業を行った。まず、光情報伝達系に関しては、ゾウリムシ単一個体の一日の行動様式の変化と関連付けて、下記のことを明らかにした。 1)ゾウリムシに11ーcis型retinalが存在する。 2)ゾウリムシ体内のcGMPは、明暗サイクル下では日の出とともに増加し、夕方から減少し始めた。そして夜間低くなり、明け方からは増加し始めた。この傾向は、恒暗条件でも維持された。 3)ゾウリムシ静止膜電位は、日の出とともに陰性化し、夕方から陽性化し始めた。夜間最も陽性になった。 4)ゾウリムシ単一個体は、昼は弱い刺激が与えられたときに電位依存性Ca^<2+>及びK^+電流によって発現するtypeIの行動(直進運動の一時停止)を示し、夕方になると比較的強い刺激が与えられたときCa^<2+>依存性Ca^<2+>及びK^+電流によって促進されるtypeII(1秒弱の後退運動)の行動を時折示すようになり、そして夜間はゾウリムシに強い刺激が与えられ細胞内へ流入する総和の電流が大きくなったために見られるtypeIII(数十秒間の後退運動)を行動を多く示すようになった。 エネルギ-獲得系の調節機構に関しては、急激な温度上昇によって合成され、ミトコンドリアに移行してATP合成を低下させるhsp60ファミリ-蛋白質の機能を注目するに至った。そこでその蛋白質の経時変化を測定し、Q_<10>〜1となる生化学反応を検索するためのprotocolを作製し、予備実験を行った。
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