現在、欧米先進諸国を中心にして動物の権利、福祉の立場から研究教育の場での動物利用の規制が進められ、これらの立場からの教育カリキュラムも進められつつある。わが国ではこれらに対応した法改正はなされておらず、この目的の社会運動はまだ大きくはない。しかし、わが国でも、人類の活動による生命環境の危機を背景に同様な非ヒト生物に対する意識変動は進行しており、これらの状況を正確に把握し、科学教育のあり方を検討することが焦眉である。そこで動物利用に関する12項目の設問を含むアンケ-トを福岡県下の小学校、中学校、高等学校の画100校を対象に行い調査活動をおこない、分析をした。小学校教員の中では生命倫理的立場から動物解剖に対する反対が小さくない一方、高等学校教員は時間的関係から実際には動物解剖や実施できないが、動物解剖実習には賛成する教員が多いなど極めて興味ある結果を得ている。本年度中にはこれらをまとめ分析、発表する予定である。 動物実験の倫理的問題は哲学的倫理学的に高度な問題である。現在欧米で進められている法的整備はこの根幹的論理については触れずして進行しており、それゆえ同時に様々な社会的亀裂を生み出している。この哲学的、倫理学的問題についての整理を試みた論文を書き上げ、発表した。著書「人間の自然からの乖離と動物への同情」では現在の動物解剖あるいは動物利用に懐疑を支える社学的要因を見つめ、人間と動物との物質的、精神的関係を自然史的に解析したものである。また、金子との共著「人間による非ヒト生命の利用とキリスト教」では非ヒト生命を犠牲にする人間のあり方を考察したものであり、一宗教の立場を超えた普遍的な倫理観を展開しており、すでに実験動物関係の研究者からの興味と注目を集めている。
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