研究概要 |
本研究の当初の計画では,パソコンを利用した数概念についての教材を,当面,数名の知能障害児にあてはめ,その成果にもとづき,教室で利用できるものにしていくつもりであった。しかし,実際には,第1年目にはすでに3年目の指導に入っていた1知能障害児(Y児・11歳・小頭症)の計5年にわたる指導が研究の中心となった。このような結果となったのは,健常児ではたちまちのうちに獲得されてしまう初歩的な数の概念が,実際に知能障害児にあてはめてみると,習得のためには多くの段階をたどらなければならない広い範囲に及ぶ概念であることが明らかとなったためである。 指導方法は,モニター上のタイルの集合と入力装置上の数字との見本合わせ法の形をとった。ただし,タイルの集合は,最初の3年間(その3年目が,厳密には本研究の1年度にあたる)は10までであったが,4年目には20までに,5年目には50までに拡大された。また,課題の変化に応じて,種々の入力装置が製作された。その中でも独自性を持つものとしては,瞬時読み取り式バーコードリーダーを内蔵するカード判定装置がある。 本研究で確かめられた他の諸点は以下のとおりである。1.手の操作性に遅れを示しやすい知能障害児にとって,タイルを迅速かつ整然とモニター上に呈示できるパソコン利用教材は有効である。2.上記のような方法で,集合とその数の対応がほぼできあがってきた段階で,補助教材として実物のタイルを導入すると,集合の識他力がより高まるようである。3.知能障害児は,見本をしっかり見ることなく選択反応をしてしまう傾向があるので,選択肢を離れた場所に置いてみたり,「消しゴムスイッチ」を配置してみるなどの工夫が必要である。
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