研究概要 |
国内におけるバイオエシックス研究の状況を把握するために、1970年代から現在に至る約20年間の研究動向を調査した。この結果明らかになったのは、70年代から80年代前半にかけては安楽死や尊厳死など患者の権利問題をめぐる研究が中心であったが、5,6年ほど前から脳死や臓器移植に関する医学的・法学的な研究が徐々に提出されるようになったという事実である。末期癌の告知、尊厳死、脳死、臓器移植、人工授精、遺伝子組み換えなど、今日の「非自己決定性」状況において、医師、ドナ-、レシピエント、家族らの各立場を包括的に考慮した広義のバイオエシックス研究に関しては、啓蒙的なものを除くと、残念ながら今現在も数えるほどしかなく、この方面では諸外国と随分開きがあるようだ。国内外の関係文献の目録作成に当たって、まずこの点を確認した。次に当初の計画では、先端医療技術の進歩によって生み出される「非自己沢定性」の問題群を全般に亙って様々な角度から分析するつもりであったが、予定に反して今年度は脳死と臓器移植の問題しか扱えなかった。この問題分析を通じて明らかになったのは、移植医療における技術的並びに経済的な問題点であった。これについてはデ-タベ-スを作成した。さらに「非自己決定性」状況における責任現象の一端を明らかにするために、バイオエシックスの有力な道徳理論と目される功利主義的原理を取り上げ、これとバイオエシックスとの関係を検討した。医療現場では「功利性」の追求が倫理的公理となるが、その際重要なのは最大善をどの程度確実に生み出すかという問題であり、倫理的責任の問題はこれと不可分に結び付いていると考えられる。しかしこの視点からの発展的な研究は、バイオエシックスの道徳諸理論の研究と併せて今後の研究課題としたい。
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