研究概要 |
ロ-マ帝政期の前期に焦点をあて、この時期に併存していた元老院身分と騎士身分の二つの官職体系と、同じくこの時期に見られたアエラ-リウムとフィスクスという二つの「国庫」の併存との関連性に着目し、この二重の二元的体制の持つ意味を、国制史の観点から明らかにすることが、本研究の目的であったが、平成2年度は、基礎的デ-タの収集と整理を通じて、従来の研究を補訂すると同時に本研究の前提となる基礎的事実を確定する作業が中心課題となった。 このうち関連史料、特にフィスクスの実態と性格を解明するためには欠くことのできない税関係の訴訟記録の宝庫であるパピルス文書の収集と整理とに関しては、三回にわたる調査・研究旅行を通じて、主要な史料集の関係部分の複写を既に入手あるいは入手の見通しがついた。入手分については既に整理を終え、設備備品費で購入したロ-マ法、ロ-マ帝政史関係の先行諸研究を踏まえつつ詳細な分析に入っている。また騎士身分の官職体系の持つ性格及びフィスクスの性格の分析のためには不可欠なものであるロ-マ法関数史料のうち、ディゲスタから抽出した帝政期の法学者達の約300を数える法文についても、既に分析を終えた。 このような作業を通じて、前期帝政期における二つの官職体系、二つの「国庫」という二重の二元的体制そのものが,共和政の国制の伝統を前提としながらも、そこには依拠しなかった前期帝政期における皇帝権のありようを示しているとの見通しを得た。更に前期帝政期から後期帝政期への移行の問題を、このような二元的体制の一元化にともなう皇帝権の変容過程として論じる、新たな可能性も生まれたと思われる。 より具体的な考察は平成3年度の課題となるが、その成果については、順次、関係学術雑誌への発表あるいは関連学会での報告を通じて公けにしていく予定である。
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