本研究の課題は、古代ロ-マ帝政前期(元首政期)に見られた、元老院身分と騎士身分の二つの官職体系の併存とアエラ-リウムとフィスクスという二つの『国庫』の併存という二重の二元的体制の持つ国制史的意味を明らかにすることにあった。平成3年度は、前年度に引き続きこの目的のための基礎的史料の収集を一層徹底させると同時に、収集した史料の整理、索引の作成作業を通じて、課題に即したより具体的な考察にも入った。 まず、史料の収集整理については、本年度も三回にわたる調査・研究旅行を行い、その結果パピルス文書及び法文書史料を中心に基礎的史料の収集については、ほぼ当初の目的を達成することができた。 また、設備備品費で購入したロ-マ法、ロ-マ帝政史関係の先行諸研究の比較分析を通じて問題点の整理を行い、以下の視点からの課題へのアプロ-チを試みた。 (1)フィスクスについて論じたロ-マ帝政期の法学説の整理と分析 (2)特に非法学文献史料を中心とした史料の比較分析を通じてのフィスクスの歴史的生成過程の分析。 (3)フィスクスの法的性格とその歴史的変容過程の分析 その結果、フィスクスが『公一私』という範ちゅうでは単純にとらえきることのできない性格をもっていたこと。このような性格は、直接にはフィスクスの管理運営(ここから後に騎士身分の官職体系が形成されていく)の在り方に起因していること。また、それは、前期帝政期における皇帝権のありようをも示していること。以上の知見を得た。 なおこれらの研究成果については、平成4年秋から平成5年春にかけて、順次関係学術雑誌に発表していく予定である。
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