方言で生活することが日常の地域社会においては、共通語が中心の社会とは違った「ことばの使い分けル-ル」があってしかるべきであるし、均質な学校教育から離れて、それぞれの地域社会にあった方言の使われ方や役割について話し合われる必要がある。共通語の必要性は高校生よりも若年層で、それよりも上の世代ではさらにその必要性を感じており、一般に社会的経験年数と共通語の必要性とには相関関係があるといえる。 方言話者たちは、共通語の必要性を感じると共に、一方で後世に方言を語り継ぎたいとも考えていた。自分の子供や孫には両言語を使い分ける成人になって欲しいと考える人が8割に達している。彼らの共通語の受入口は学校教育よりもテレビに因るところが大きく、学校教育には使い分ける指導を期待していることがわかった。教育関係者の意識について見てみると、小学校教員は初等教育の必要性から、また高等学校教員では共通語社会に送り出すための準備教育という面から共通語教育についての意識が高くなっていた。中学校教員では小・高の教員よりも共通語教育に対する意識は10%ほど低くなっていた。また、放送での方言の使われ方については、一時期よりも否定的な意見は減少したものの、それでもノンネ-ティブタレントが方言を使った場合には「いやな感じがする」との意見が4割を占める。送り手側であるマスコミ関係者も同様の回答傾向を示し、番組や紙面上での方言の扱いに対して(複数回答)「少し興味本位の所がある」(50%)や「方言の良さを十分に伝えていない」(50%)と答えるが、一方で「それで番組が盛りあがるならかまわない」との回答も高くなっている(31%)。慎重な取り扱いが望まれる。 今回の研究の成果は、論文という形だけでなく、テレビやラジオの特集番組、地元紙や全国紙を通じての提言を行ってきた。また、教育委員会作成の視聴覚教材にもその成果が活かされており、地域社会全体が方言主流社会におけることばの使い分けル-ルを考え始めるようになった。
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