平成2・3年の両年度にわたり、多良間島の歌謡を収集し、それらを機能と構造の観点から分析した結果、以下の知見をえることができた。 1歌詞資料…ヴァリアントをふくめ65曲を収集することができた。それらを国際音声記号と仮名文字によって記録・保存した。 2内容…歌詞の内容は、(1)神や英雄の讃美、(2)生産生活、(3)祝祭、(4)人間関係、(5)家庭生活などを主題にしている。個々の歌謡は、このような主題への分化を通して、みずからの宗教的な機能あるいは世俗的な機能を実現している。 3構造…歌詞の構造は、社会的な人間関係や家庭生活を主題としたごく一部の歌謡だけが抒情的であるが、その他の多くは叙事的であり、多良間島の歌謡の古い性格を特徴づけている。 4歌唱主体…歌謡を実現する主体は、叙事的歌謡が集団、抒情的歌謡が個人という一般的傾向がある。しかし集団によって歌謡が実現される際には、その組織形態は(1)男性老人、(2)女性、(3)男女のグル-プにわかれることが多い。さらにこれらは、ムトゥバ-リとよばれる前唱者とウティガ-リとよばれる後唱者にわかれる。 5歌唱法…歌唱法には、(1)復唱法、(2)分担歌唱法、(3)分担・復唱法、(4)復唱・斉唱法などがあり、復唱法を基本にしていることがわかるが、このことは、歌詞の内容の宗教性や構造の叙事性と関連していて、この島の歌謡の古い性格を特徴づけている。宗教的な歌謡ばかりではなく、世俗的な歌謡においても、この歌唱法が一貫していることもそのことをうらづけている。
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