研究概要 |
平成3年度における研究は,前年度に引き続き,韓国,台湾の2ケ国における経済発展に果たす中小企業の役割と政策について,日本との比較分析・考察を行い,さらにシンガポ-ルの現地実態調査研究を重ねた上で,アジアNIESにおける経済発展に果たす中小企業の役割について研究を深めた。この結果,次の諸点が明確となった。第1にアジアNIES諸国における中小企業等関連産業育成・拡大には,なお時日を要する現状にあり,技術移転,技術蓄積に課題を有している。第2に技術を考える場合,次の3つの視点が重要と考えられる。(1)技術は生産手段としての物的資本に体化された要素(ハ-ドウエア技術)と個別経済主体としての個人や組織に体化された要素(ソフトウエア技術)によって構成されるが,発展途上国への技術移転やそこでの技術蓄積においても,この両者とくに後者が重要であり,かつ大きな課題と考えられる。(2)アジアNIES諸国は主として組立て技術を中心に発展してきたが,技術水準の高度化には製品の組立て技術のみならず,関連する素材,部品等の中間財の生産技術,さらには部品を製造するための機械設備の生産技術をも必要とする。(3)技術水準は最終的には工程・部品設計,製品設計,製品開発,技術,設備開発にまで高められねばならない。 以上の視点からすれば,アジアNIES諸国は今やASEAN諸国はじめとする国々の追い上げを受ける中で従来の価格競争力のみならず,一層の品質競争力を必要とする転換期にある。そのため,中小企業の技術蓄積を推進し,国民経済の中で,中小企業の持つ多様な役割と機能を十分発揮させてゆくことが政策面でも重要な課題と考えられる。なお,この研究は中小企業と大企業との分業関係の理論的・実証的研究として進め,さらに国際比較研究の視点から深化させる予定である。
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