本研究の目的は、日本企業の役員兼任の実態を明らかにし、そのネットワ-クの構造を企業と人間の両側面から分析することであった。本年度は、次の3点について研究を主に実行した。日本企業の実態について本格的に解明するための必要不可欠の予備的な研究が、本年度になされた。平成3年度は、それらの成果の基づき、日本企業における役員兼任の全体像を著書として刊行したい。 1.論文「イギリスにおける取締役兼任・社外取締役の実態と意義」(正木久司編著『株式会社支配論の展開』所収)では、イギリスの役員兼任が日本と同様に相対的に少数である原因が。社会的な「エスタブリッシュメント」の存在であることを指摘した。しかし社外取締役は増加傾向をもっており、これは、企業業積の向上に彼らを利用しようとする産業界の意図が働いていると主張した。日本の役員兼任の状況を解釈する場合に、このようなイギリスの現状は、十分に参考になった。 2.翻訳書『企業権力のネットワ-クーー10か国における役員兼任の比較分析ーー』は、欧米10カ国の役員兼任ネットワ-クの構造や意義を国際比較した研究成果であり、この分野における現在までの到達点を示す業積である。この翻訳と出版によって、この研究対象を一般にも広く啓蒙することになり、また、日本企業の分析についても、何をなすべきかが明示された。 3.学会報告「日本企業における株式所有・役員兼任ネットワ-クの構造比較」では、東急グル-プの役員兼任と株式所有の構造を、1983年と1988年の2時点について調査し、その構造上の比較を行った。また、株式所有・役員兼任の双方について調査したイギリスの先行研究を紹介した。そのことによって、より体系的な調査の糸口を把握する努力がなされた。
|