研究概要 |
これまで行われている傾斜薄膜法による原子偏極の研究は、斜めに置かれた薄膜を通過する際イオン原子の軌道角運動量が偏極することを利用している。偏極の大きさは薄膜の傾斜角に依存し,垂直に置かれた場合は軸対称励起となり、ビ-ムイオンの準位は整列するが配向(偏極)はせず偏極は零である。しかし、我々が行った測定では薄膜を垂直に置いた場合でも放射光の観測方向と平行に磁場を印加した場合、特定の遷移では光の左右両円偏光強度に差が認められ原子偏極を観測した。この原子偏極は新しく観測された現象であり、非常に興味深いものである。本研究はこの偏極を光学的検出法により観測し、偏極発生機構の解明を目的としている。 この偏極現象自体が全く新しいものであるので、本年度は先ず現象の観測事実の確立を主目的とした研究を行った。このため分光計を含む光学検出系一式を新しく整備し、既存の一式と合わせ二式の光学系を使用しヴァンデグラフ加速器からの500keV ^4HeイオンについてHeII468.6nm(n=3ーn=4遷移)光に対して、1.偏極の磁場依存性、2.偏極の時間変化の二つの測定を行った。1.の測定ではビ-ムに対して左右の両方向に置かれた光学系において大きさは等しく正負符号の逆なスト-クスパラメ-タ(S/I)が得られ、偏極が確認された。その大きさは磁場零で零、急激に立ち上がり300〜500ガウスで最大値十数%となり、その後緩やかに減少し1Kガウスでは数%となった。2.の測定に於て、薄膜通過直後の位置での偏極は数%であるが遠く離れるにしたがい増加し通過後3ナノ秒後の位置では一定値十数%に達した。これは468.6nm光に短寿命の無偏極成分を示唆していると考えられる。468.6nm光の寿命測定に於て3成分の存在を確認しているが、各成分の同定はできていない。
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