本研究の目的は、絶対零度近傍に於ける「ゆらぎ」ーーー特に1/f雑音ーーーと「緩和現象」について実験的に研究しようとするものである。平衡状態での熱力学では、第3法則(Nernstの定理)に従い、絶対零度に近付くにつれて、系のエントロピ-は零になっていくと教えられる。所で、絶対零度に近付くときに、この平衡状態の近傍に於ける「ゆらぎ」や非平衡な状態から平衡状態へ漸近するときのいわゆる「緩和過程」については、何か一般的な法則なり定理なりが存在するであろうか?超低温度で系統的な実験を行い、これらの点についての手がかりを得るのが本研究の目的である。 「超低温度に於ける緩和過程」の研究に関しては、1mK以下の温度で固体3HeのU2D2相といわれる核スピン秩序相についてその反強磁性共鳴の緩和過程を調べた。熱平衡状態の近くで、微少に励起された反強磁性共鳴のスピンの一様な才差運動について、その緩和過程は一様な才差運動がスピン波に崩壊する過程として説明されることを理論的および実験的に示した。これらは、通常の非可逆過程の統計力学、線形応答理論で理解できるものであった。更に、単磁区の単結晶をつくり、パルス法NMRを用いて、熱平衡状態から遠く離れた状態からの緩和現象を調べている。ここでは、力学的な不安定性が問題となってくる。準粒子密度が非常に小さいような超低温度における超流動3Heの緩和過程の研究も今後に残された問題である。 「雑音測定」に関しては、以前から行っていたGaAs半導体回路素子の極低温における雑音測定のほかに、酸化物超伝導薄膜からの雑音測定を行った。これらからは、大きな「1/f雑音」が観測された。これらは、超伝導薄膜のGrain Boundaryにおけるコンダクタンスの揺らぎによるものとして説明できることが分かった。
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