ロッドの形状をした高分子の溶液中での一次元ブラウン運動を研究した。その高分子の両端をそれぞれプラス端、マイナス端と呼ぶことにする。その高分子はその長軸に方向の運動に対して溶媒から反対方向の摩擦力を受ける。プラス端方向への運動に対する摩擦係数がマイナス端方向への運動に対するそれより小さければ、時間が経てば、プラス端方向へ徐々に動いて行くように直感的に思われる。マクロな物体では摩擦係数の差を利用してランダムな力によって一方向に動くものはいくらでも存在する。本研究の目的は、このような一方向へのブラウン運動がミクロな世界でも起こるかどうかを明らかにすることである。長い高分子として、ミオシンサブフラグメント1(S-1)でデコレートされたアクチンフィラメントを用いた。S-1はアクチンフィラメントの長軸に対して約45°の角度で結合する。従って、この複合体はその長軸に沿って非対称性をもつ。この複合体の一次元運動を実現するために、溶媒中にメチルセルロースを加えた。この複合体を蛍光顕微鏡下で可視化するために、アクチンを蛍光色素で染色した。また、アクチンの極性を可視化するために、そのB端側はP端側を異なる蛍光色素で染色するか、同じ色素で異なる度合いに染色した。ブラウン運動をその運動方向とアクチンの極性との関連を含めて観察することができた。アクチン-S-1複合体はほぼ一次元で運動した。しかしながら、この複合体の重心位置を精度良く測定することが困難であった。これは、この複合体が柔らかく、その全長にわたって対物レンズの焦点面にあることが稀であることによる。そのようなことがたまに起こっても、数秒後には焦点面からずれていってしまった。ともかく、得られたデータを解析したが、どちらの方向に優位な運動が起こっているかどうかを、この測定精度内では検出できなかった。フィラメントを硬くするために、トロポミオシンを加えたり、アクチンを化学処理した。確かに硬くはなったが、やはり長い時間焦点面内に留まることは稀であった。結論として、3次元で物体を追跡できる装置が必要である。このような装置を近い将来開発する。
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