研究目的は地球環境が地球史にわたって安定に維持されてきたメカニズムについて研究することであり、そのために地球環境の中でも最も基本的な物理量である地表平均気温の変遷について理論的な考察を進めることである。地表平均気温は大気中の温室効果ガス、なかでも二酸化炭素の大気中の含有量に依っている。二酸化炭素は大気、海洋、地殻、マントルを循環し、その相互の収支が様々なフィ-ドバック機構によって制御されている。そこで、これまで簡単なボックスモデルを用いてその系の安定性などについて調べてきたが、本年度からの研究においては、二酸化炭素供給のメカニズムとして最も重要なマントルからの脱ガス過程をシュミレ-トする計算コ-ドを開発し、それをこれまでに開発した大気、海洋、海洋底、大陸、マントル間の質量収支についてのボックスモデルに組み込み、地表各圏及びマントル間の炭素循環を数値シュミレ-ションすることにしている。初年度の今年は、マントルからの脱ガス過程をシュミレ-トする計算コ-ドの開発を目的とした。これまでに、マントル対流をパラメ-タ化対流モデルを用いて記述し、粘性率の温度依存性と揮発性元素量の依存性も考慮したマントルの熱史モデルを完成させ、より現実的なマントル物質の地表付近での固定に伴う脱ガスモデルの構築と合わせてマントルからの脱ガスモデルを完成させつつある。そこで現在、次年度にかけて炭素循環の46億年間にわたる数値計算を進めつつあり、その第一報としての論文をまとめたところである。これまでに得られた最も重要な結果は、安定な地表平均気温を維持し、現在の地表付近の各圏の総炭素量を説明するには、海洋底におけるプレ-トの拡大速度が地球史を通じて一定であることが必要であるということである。
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