一定水深の円形水盤内の均一流体に反時計まわり(北半球の設定)の一様回転を与えておいてから、水盤の鉛直側壁の一部(1/4)に冷却を加え続け、生成される循環流の構造とその時間発展を実験的に調べた。その結果、回転流体中の浮力駆動循環流の基本的性質に関し、以下の様な新たな知見を得た。なお、それ等の知見はこれまでの大循環論のシナリオには全く含まれていないものである: 1.北半球の設定では冷却を受ける部分を「北」とみなすのは自然であろう。さて、水深一定で(fー面)、水盤形状も印加温度差も完全に東西対称であるにも拘わらず、生成される時計まわりの主循環は著しい東西非対称性を示す。即ち、北の冷却部に向う北上流は西側の境界に沿う集中した強流となる。この西側境界流の正味の流量は、流れ場・密度場が充分発達する“成層時間"の後には、冷却による沈降流量の数倍に達する。更にこの西側境界流は1)下流に向って流量が増大する2)底層に弱い逆流(南下流)域を持つを持つ3)自然に離岸する等の現実の西側境界流(例・Gulf Stream)の重要な特徴を備具している。 Gulf Streamのような西側境界強流は、従来、風応力とβー効果(コリオリ係数の緯度変化)によって生成される現象であると考えられてきた。これに対し、風応力とβー効果が無くとも、単に北辺の冷却・沈降だけでもより現実的な西側境界強流が作られ得ることを実証したものである。今後は更にこの循環流の定量的性質を調べ、現実の流れとの定量的対応を論ずる。 2.本研究の副産物として、日本海の不均一冷却が対馬暖流の駆動に重要な役割を果している(新説)ことを見出した。即ち、この実験において、東西に関口部を設けたところ、西側の開口部(対馬海峡)で流入が生じ、東側の開口部(津軽)から流出が起こることを発見した。今後の重要な課題となろう。
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