研究概要 |
本補助金を用いてデジタルマルチメ-タ,スキャナ-,定電圧定電流電源,小型計算機,ガラス製クライオスタットを購入し,電気伝導度測定装置を組み上げ,二端子または四端子法により,4〜300Kの温度範囲で,電気伝導度を半自動測定できるようにした。磁気モ-メントを有する遷移金属イオンを含む,高伝導性有機固体として,BEDTーTTFおよびBMDTーTTFカチオンラジカル塩の電解法ないし拡散法による単結晶の育成に着手した。得られた錯体の中で比較的高い伝導性を示した,MnCl_4^<2ー>,CoCl_4^<2ー>,CuCl_4^<2ー>を含むBEDTーTTFカチオンラジカル塩について,低温磁化曲線,磁化率,電子常磁性共鳴などの磁気測定を行なった。これらの錯体における,BEDTーTTF分子積層上の遍歴電子スピンと,遷移金属イオン上の局在電子スピンとの間の相互作用について,測定結果を基にして分子場理論に立脚した半定量的解析を行ない,両者の間には磁気相互作用が確かに存在するものの,その大きさは1K以下の比較的小さいものであることを明らかにし,この成果の一部を取りまとめてSynthetic Metals誌に発表した。相互作用の本質についてさらに詳しい解析を行ない,別の論文として発表する準備を進めている。上記のTTF誘導体のカチオンラジカル塩の研究と平行して,有機分子のみから成る,遍歴電子系と局在電子系との両者を含む錯体を得る目的で,中性有機ラジカルを分子の一部に持つ電子供与性分子を合成し,その電荷移動錯体を作成した。現在の所,高い伝導性を示す錯体は得られていないが,磁気測定を行なった結果について取りまとめてSynthetic Metals誌に発表した。これまでの結果を綜合すると,遍歴電子系と局在子系との相互作用が,電気抵抗異常の発現や磁気秩序の形成にとって充分な大きさを未だ持っていない事が言える。相互作用を大きくする方策の探求が今後の課題である。
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