研究概要 |
昨年度に引続き,本補助金を用いて薬品および寒剤を購入し,磁気モ-メントを有する遷移金属アニオンを対イオンとするTTF誘導体のカチオンラジカル塩の合成と電気および磁気測定を行なった。これと平行して,有機分子のみから成る,遍歴電子系と局在電子系の両者を含む錯体を得る目的で,有機中性ラジカルを分子の一部に持つ電子供与性分子を合成し,それ自身およびその電荷移動錯体の電気および磁気測定を行なった。錯体の電気伝導率は低いものが多く,当初の目的に適ったものは得られなかったが,研究の過程において有機ラジカルを媒介として分子間に強磁性および反強磁性相互作用を示す物質群を見いだした。それは,有機中性ラジカルであるαーニトロニルニトロキシドの,窒素原子を含む有機ヘテロ環化合物およびアミノフェニル誘導体であり,なかでも3ーキノリル誘導体は交換結合定数J/k=0.3Kの分子間強磁性相互作用を示すことがわかった。3ーキノリル誘導体の磁性について取りまとめて論文誌に投稿した。分子間に強磁性相互作用を示す有機結晶固体は未だ数が限られており,3ーキノリル誘導体の結晶構造解析を行ない,その構造と磁性の関係を調べている。一方,反強磁性相互作用を示すものも多く,とりわけpージエチルアミノフェニル誘導体は一次元規則的等方性Heisenberg反強磁性体に特有の磁化率の温度依存性と等温磁化曲線とを示すことを見いだした。一次元規則的等方性Heisenberg反強磁性体の例は無機物質にも余り見られず,1.7Kの低温で20Tまでの強磁場下で等温磁化曲線を測定し,等温磁化曲線が一次元規則的等方性Heisenberg反強磁性体について理論的に予測された通りになることを確め,Solid State communications誌に発表した。引き続き,伝導性の高い有機ラジカルの錯体を得るために,新しい錯体の合成と物性測定を行なっている。
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