1.はじめにー研究目的ーーーー大動脈等の組織で弾性機能を司る重要な蛋白質でありながら特性が殆ど不明なエラスチンについて、エラスチン関連ペプチドの液ー液2相分離を伴う会合体形成過程と会合体の構造、物性を以下の測定法により検討し、エラスチン生合成過程との対応や機能発現との関連を考察した。 2.研究期間中に得られた具体的成果並びに途中経過についてーーーー(1)分光学的測定及び光散乱測定から得られた結果:400nmでの濁度測定により、エラスチン関連ペプチドの温度依存性コアセルベ-ションの開始温度等に関する基本的知見を得る事が出来る。更に、分光蛍光光度計を用いた散乱光測定、最終的に静的及び動的光散乱測定から、牛項靭帯由来αーエラスチンー水系での臨界挙動を観測した。共存金属イオンは、臨界挙動にも特異的な影響を与える結果が得られ、特にカルシュウム、銅については、詳細な検討を行っている。(2)エラスチンコアセルベ-ト中のイオン輸送測定から得られた結果:液滴形成を経て分離したコアセルベ-ト層を蛋白質液体膜とするイオン輸送に関する実験を行い、カルシュウムの選択特異性を示唆する結果を得た。カルシュウムとエラスチンの特異的相互作用の分子機構解明は弾性発現機構や動脈硬化発症機構と関連する重要な研究課題である。(3)その他の測定から得られた結果:示差走査熱量測定、NMR測定も行いコアセルベ-ト物性を検討した。(4)エラスチンモデルポリペプチドの物性と機能:VPGVG配列のモデルポリペプチドを合成し物性を検討した。極生アミノ酸を導入した老化モデルペプチド、C13導入モデルペプチドも合成した。 3.研究経過の反省と今後の計画及び展望についてーーーー会合体形成過程に対する、細胞外領域での生合成に対応する空間的制約の効果、水の状態と疎水性相互作用について更に検討の必要がある。
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