炭素化学において3価のカルベニウムイオンは重要な中間体であり、安定なものも単離されている。一方、カルベニウムイオンのケイ素類似体である低配位のシリセニウムイオンは溶液中では存在しないとされてきた。これが有機ケイ素化学と炭素化学とが最も大きく異なる点である本研究は二重結合ケイ素化合物やポリシラン化合物を電子移動酸化することにより、溶液中で安定なシリセニウムイオンを合成することを目的として研究した。テトラメシチルジシレンやテトラキス(ビストリメチルシリルメチル)ジシレンなどのSi=Si二重結合化合物を合成してその電子移動反応を詳細に検討したが、極めて複雑な反応結果に終わり、シリセニウムイオンの検出に至っていない。しかし、ポリシラン化合物の電子移動反応で低配位シリセニウムイオンを経たと見られる実験結果が得られた。既ち、分子内に水酸基を導入したポリシラニルアルカノ-ル(1)および(2)を合成し、その電子移動反応を検討した。その結果、ラジカルカチオンのカチオン部が水酸基によって捕捉された環状生成物(3)および(4)が収率よく生成した。これらの環状生成物はシリセニウムイオン等価体を捕捉したものと考えてよい。
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