研究概要 |
ニトロアルケン類をジエンとし、アルケンをジエノフィルとする「ジエン-ジエノフィル複分解」の適用範囲が示された。この反応は三つの一連の素反応より構成されている。即ち、ジエンとジエノフィルの環化、1,3-プロトトロピーによる環化付加体の二重結合の異性化、最後に、逆ディールス-アルダー分解である。この反応により、「ジエン」としてのニトロアルケンの酸素が脱離し、「ジエノフィル」としてのアルケンのメチレン部がニトロアルケンのβ位に転位したα,β-不飽和オキシムとなり、アルケンのもう一方のメチレン部はニトロアルケンの酸素と結び付きカルボニル化合物になるという新規なものである。 中間体の六員環環状ニトロン酸エステルの形成および分解を検討の結果、この反応が進行するための条件が明らかになってきた。まず、「ジエン」としてのニトロアルケンはβ位にp-ニトロフェニル基やベンゼンスルフォニル基程度の十分に電子吸引性の置換基を有することが必要である。このような置換基は「ジエン」と「ジエノフィル」の環化した中間体のプロトトロピーおよびそれに続く逆ディールス-アルダー分解を促進させる効果を持つためである。「ジエノフィル」としてはビニルエーテル類はどのようなものでも良好な試薬であることが判明した。アルデヒドより誘導されるビニルスルフィド類は、環化中間体の段階でその6位水素の酸性度が高くなり、この水素の脱離による望ましくない副反応を起こすことが確かめられた。エナミンは環化中間体が開環しやすいため「ジエノフィル」として使用できない。また、3,5-ジニトロ-2-ピリドンはエチルビニルエーテルと反応して環状ニトロン酸エステルを与えることを見いだした。
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