研究概要 |
本研究の目的は、金属錯体のもつ不対電子を利用して,隣接する金属間の磁気的相互作直を制御し,さらに長距離に渡る磁気的制列を獲得することにより,強磁性体を合成することである。この目的は,充分に達成され,将来,実用的磁性材料開発への展望も開けた。不対電子の短距離・長距離に渡る秩序構造の獲得は,これまで大きな難問として存在していた。本研究では,三つの架橋部位をもち,しかもこれが等方的に拡がった金属錯体を構成要素に用いることで,一気にこの問題を解析した。具体的には,[Cr(OX)_3]^<3->を構成要素に用いた。この化合物は,等方的なD_3対称をもち,シュウ酸イオンは,二座キレ-ト配位子としてクロム(II)に配位するとともに,外側の二つの酸素原子が他の金属イオンに配位して,三次元的高分子構造を形成する。合成した錯体は組成式{NBU_4[Cr(ox)_3M]}(NBU_4=テトラブチルアンモニウム,M=Mn^<2+>,Fe^<2+>,Co^<2+>,Ni^<2+>,Cu^<2+>,Zn^<2+>)をもち,微結晶として単離された。Zn^<2+>をのぞく化合物は,すべて強磁性体に特有の性質を示した。磁化率のキュ-ソ-点以下での発散,弱磁場下での磁化,残留磁化,ヒステリシス現象などを測定し,磁性体としての性能を見積った。これらの錯体は,いままでにない大きな利点をもっている。三次元的な構造,分子間,分子内の区別がないことなどは,今後の分子強磁性体を分子設計するうえで,大きな指針になると期待される。本研究成果は,第40回錯体化学討論会,日本化学秋季年会(若い世代の特別講演会)で口頭発表し,平成3年初冬にアメリカ化学会学会誌に投稿した。
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