本研究の当初目的は植物葉中のクロロフイル蛍光を、山岳の異なる高度に生育する同種植物や低地に移植されたそれら植物を用いて、環境要因として重要な紫外線との関わりを解析する予定であった。しかし、クロロフイル蛍光測定装置の入手のおくれ、また植物の生育最盛期における長雨とそのための低温によって、当初の計画に沿って研究をすすめることができなくなった。そこで、紫外線耐性としては紫外線除去機能という点で間接的ではあるが、紫外線吸収物質と紫外線の関係を、人工気象器内で育てた幼植物について調べた。 オオバコでは、紫外線吸収物質として8成分が検出されたが、オオバコ幼植物からはそれらのうち6成分が検出された。1成は「プランタギニン」と同定されたが、他の1つは未同定である。この「プランタギニン」の生成能は高地由来の幼植物ほど高いことから、紫外線吸収物質の生成能は親植物の生育した紫外線環境に対応して、遺伝的である可能性が高い。ただし、この生成能は紫外線の存在下でのみ発現することから、紫外線に対してはきわめて適応的である。クロロフイル蛍光については、イタドリでは生育高度との関係は明らかではなかったが、モミジカラマツでは、高地に生育するものほど紫外線耐性は大であると結論された。山地帯に生育する5種のクロロフイル蛍光の解析から、垂直分布高度の上限が高いものほど紫外線耐性は大であると推測された。人工気象器内で育てられたオオバコ幼植物でも、高地由来のものの方が紫外線耐性は大になる傾向があった。 紫外線傷害回避機能については、これの遺伝性と共に、一層の検討が必要であろう。
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