タチジャコウソウ(シソ科)の黄化苗を用い、光照射実験を行なった結果、モノテルペノイドだけでなく、セスキ、トリ、テトラテルペノイドの生成が、光受容体蛋白であるフィトクロムを介した反応であることが明らかとなった。一方、モノテルペノイド生合成の場である腺毛および腺鱗の形成も、同様にフィトクロム支配であることが判明した。即ち、植物の分化ならびにテルペノイド代謝の発現に、光受容体フィトクロムが深く関与していることが明らかとなった。次いで、光受容体であるフィトクロムから、上記の分化・代謝発現までの情報伝達に蛋白質のリン酸化反応が、介在しているのではないかと推測し、以下の実験を行なった。光処理した黄化苗の子葉から得た蛋白質をSDSーPAGEで泳動し、ニトロセルロ-ス膜に転写後、抗リン酸化チロシン抗体を作用させ、 ^<125>Iーprotein Aを用いて検出した。その結果、抗リン酸化チロシン抗体は、赤色光照射(2W/m^2、30分)した黄化苗の子葉中において、対照の暗黒下に比べて、25kDa蛋白質を特異的に検出することが明かとなった。25kDaの蛋白と抗体との反応は、5mMのリン酸化チロシン共存下では完全に消失したが、リン酸化スレオニンあるいはセリンの共存下で阻害されないことから、チロシン残基が特異的にリン酸化されていると考えられる。本蛋白のリン酸化反応は、赤色光に続いて照射した近赤外光により減少した。また、赤色光照射後30分後に最大となり、1時間後ではほとんど消失した。これらの結果より、フィトクロムが受容した光情報の伝達において、上記25kDa蛋白質チロシンリン酸化反応の促進が、重要な役割を果たしている可能性が示唆された。しかし、これらの実験結果は再現性の点で少し問題があったので、現在、再現性良く検出するための実験条件をさらに詳細に検討している。
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