研究概要 |
ニジマス胚(15℃ー10日胚)にフェニルヒドラジン(PHZ,10^<ー5>M)を12時間処理し正常水にもどして発生を観察した。これらの胚のヘモグロビン(Hb)は、酸素と結合できない酸化型Hbに変化しており、このHbを持った赤血球は発生の進行とともに次第に破壊・吸収され、全体が白っぽい赤血球欠除胚ができた。この濃度とこの作用時間のPHZは血島や中間細胞群での赤血球の分化を阻害せず、また、孵化の時期を1〜2日遅らせる程度で、赤血球以外の細胞の分化に対しても深刻な影響を与えなかった。PHZの作用は血流中の赤血球を特異的に破壊するものであろう。 このような赤血球欠除胚に回復してくる赤血球を調べてみた。胚全体の赤血球の量を正確に定量する事は因難であるが、胚全体に占めるHb含有細胞の割合を組織化学的に計測することにより、半定量的に赤血球の量的変化を知ることができる。赤血球欠除胚はPHZ処理後孵化までの間、正常胚の数%の赤血球しか持っておらず、孵化以前には赤血球はほとんど回復しない。この時期の赤血球が胚型Hbを持つ胚型赤血球である事実はすでによく知らているので、胚型赤血球は回復しない、と結論できる。 一方、孵化時に、赤血球欠除胚の赤血球は急激に回復してくる。孵化にともなって胚型赤血球から成体型Hbを持った成体型赤血球へ転換する事実もまたよく知られているので、この回復は、成体型赤血球の産生が分化してきたためであると考えられる。以上の確証を得るため、胚型赤血球と成体型赤血球にそれぞれ特異的なプロ-ブである抗体を現在作製中である。 PHZ処理赤血球欠除胚に胚型赤血球の回復は抑制されているが、成体型赤血球の分化は正常胚と同様である事から、両者の赤血球が属する幹細胞の性質に何らかの相違があるかもしれない。
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