新しい薄膜超伝導機構として、固体表面薄膜中に励起されるKdV型の表面弾性波ソリトンが、電子ーフォノン相互作用を介して、電子を補捉し、ソリトンの安定伝幡性によって生ずる安定な電子輸送機構を理論的に検討した。本研究では、まず薄膜中に局在するLove波フォノンのみたす非線形波動方程式が、KdV型の非線形発展方程式に帰着することを示し、弱非線形の場合には近似解としてKdVソリトン解を持つことを指摘した。この近似解の安定性は、数値的に確かめられている。ここで提起された新しいKdV型の非線形方程式は、級数型の厳密解をもつことが示されており、近似解はこの級数解の第1項と対応を持っている。 次に、半導体薄膜を考えた場合には、伝導電子は電子相関を無視した極限で一体のシュレ-ディンガ-方程式をみたし、電子ーフォノン相互作用の効果は、電子に対して表面弾性波ソリトンがポテンシャルの寄与を与えることが明らかになった。このソリトンが電子に対して引力ポテンシャンとして働く場合には、ソリトンパルスの振幅がある闘値以上であれば、束縛状態が存在し、一つの束縛準位に2個の電子が束縛される。ソリトンは固体内の様々な不純物や欠陥に対して極めて安定に伝幡するから、表面弾性波ソリトンに束縛された電子は、ソリトンの運動にともなう薄膜内を伝わる2次元完常電流を生じ、“準超伝導電流"の存在の可能性を理論的に指摘することに成功した。
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