研究概要 |
前年度は,構造用セラミックスにおける破壊強度と潜在欠陥との特異的関係を検討するため,4種類のセラミックスに関して実験的検討を行った.このうち窒化ケイ素に関しては負荷過程でアコ-スティック・エミッション(AE)を測定した結果,最終破壊以前にも比較的大きなAEが発生することが明らかになった.この観察結果から新たに欠陥境界層の概念を提案した.つまり,通常の欠陥は幾何学的に理想的な形状として評価できず,その周囲に微視組織に依存した不規則領域を有しているが,この領域をある特定の大きさの欠陥周囲の脆弱層として想定し,その層が最終破壊以前に分離するという仮説である.この仮説に基づいて潜在欠陥と強度との特異的な関係について考察し,さらにモンテカルロ・シミュレ-ションによって欠陥と強度との関係を推定した結果,実験結果におけるばらつきも含めて良い対応が認められた.しかし,このような欠陥境界層は物理的なイメ-ジとしては抽象的であり必ずしも捉えにくいものであることがわかった.そこで,本年度では物理的イメ-ジがより明確なモデルとして,初期欠陥(潜在欠陥や切欠き)の前方における結晶が負荷の増大に伴い破壊されていくことによりき裂成長が起きるとするモデルを提案した.このモデルでは,欠陥の前方の応力場から計算される結晶粒当りの平均のひずみエネルギ-が単結晶の表面実効エネルギ-を超えた時点でその結晶粒が分離すると仮定した.このようなモデル解析を適用することによって,強度の欠陥寸法に対する依存性および破壊じん性値の切欠きの曲率半径に対する依存性を説明できた.特に,き裂先端の結晶粒径を確率変数として変化させた場合のランダム系に対するシミュレ-ションも行った.これによって,き裂が短い場合にはき裂先端の結晶粒径の変化の影響を受けてばらつきが大きくなるが,き裂が長くなるとその影響は小さくなりばらつきもなくなることが判明した.
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