研究概要 |
生体は環境変化や行動形態の変化に対して、自己の全体または部分を成長あるいは変性させる。このような機能的適応が力学的要因によって後天的な形態変化として生起する場合には,応力またはひずみが重要な役割を果すとの仮説が古くから存在する.最近では、定性的にではあるが、これが実験的に観察されるようになり、力学研究者の注目をあつめつつある.本研究では、応力やひずみといった力学負荷状態により、骨や腱、椎間板といった骨格系組織の特性がどのように変化するかという適応の過程に,バイオメカニクスの視点から接近することを目指し,以下の各項目について検討を行った. ・生体硬組織における残留応力測定:骨における残留応力を小動物を用いて測定し,その存在を明らかにした.これは、血管の力学的適応が残留応力と密接に関連しているとの仮説を,骨においても示唆するものである. ・残留応力を考慮した力学的適応の単純モデル:生体の部分構造を、簡単な一次元の不静定構造に仮定し,単純化された力学的適応の数理モデルを提案した. ・力学的負荷と脊椎症の関係についての実験的検討:小動物の頚椎にくり返し負荷を与えた実験系により,力学的負荷により椎間板の線維輪に変性が生じること、軟骨細胞の増殖,軟骨内骨化の進展などを確かめた. ・腱の力学的負荷に対する適応:小動物の膝蓋腱の負荷を調節し、その力学特性及び形態寸法の変化を定量的に調べた.無負荷状態を与えると腱の力学特性は急速に低下するが,再負荷による回復は容易でないことが明らかとなった.また過負荷に対しては、力学的特性は変化しないが,形態寸法の増大で適応することを明らかにした.
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