研究概要 |
生体組織が力学的環境に応じて成長,変形を行う適応機構は,力学的な条件との明確な関連において理解することが重要である.前年度の結果に基づき,数理的,実験的モデルを用いて以下の各項目について研究を行った. 1.骨の力学的再構築における残留応力介在モデル:前年度に提出した残留応力の介在を考慮した力学的再構築の考え方に基づき,具体的な初等モデルを提出した.提出モデルを用いた数値実験を通じて,過去の形態変化との比較を行い,現象記述能力を確認した. 2.脊椎椎体・椎間板変性の実験モデル:筋および靭帯の機能損傷をモデルを外科的に導入することで,頚部脊椎症の実験モデルが作成できることを明らかにした.また,長期にわたる力学的不安定性による,軟骨増殖,線維輪亀裂発生,髄核萎縮,椎間板ヘルニア形成,骨棘形成などを観察された. 4.高血圧に対する血管壁の適応反応:高血圧下における大動脈壁の変化については実験的に検討した.血管壁の厚さは血圧と良好な相関を示し,血管壁応力は血圧によらずほぼ一定となることを確認した.また,血管の弾性的性質の応答がこれに続くことが観察され,それぞれの応答の時定数には差異があることが分かった. 以上,定性的観察が主であった力学的適応現象への定量的接近を試みたが,適応機構に対する数理モデルと実験モデルの総合的な検討をさらに進める必要がある.
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