振動障害は、振動を発生する工具から人体に振動が伝達された場合に、抹梢循環系障害を引き起こす職業性疾患である。この疾患の発症機構の解明は、根治的治療法を見い出すうえにおいても極めて重要となるが、関連する知見は殆ど得られていない。血液はガスが飽和した発泡しやすい性質を有することから、本研究では、加振された血液中で生成する気泡が血管を閉塞するという理論的予測に基づき、血液中で生成した微小気泡の計測を目的としている。本年度の研究では、始めに、一定サイズの微小気泡を発生する装置並びにアクリル製の測定部セル(流路幅5および10mm)を製作した。次いで、この気泡発生装置に、本年度購入したHeーNeレ-ザ発生装置および光電子倍増管を組合せ、さらに、気泡検出時に出力される電圧信号を解析処理するため、既存の波形記憶装置並びにFFTアナライザ-を一体化した気泡計測システムを作成した。現在、供試液体として、水並びに血液と類似の物性を持つカルボキシメチルセルロ-ス500ppm水溶液を用い、微小気泡とパルス信号のスパイク波高値との関係について実験を行っており、気泡径の増加と共にスパイク波高値が大きくなることが明らかになっている。これらのデ-タに基づき、気泡検定のデ-タファイルの一部が作成されるに至っている。理論的研究としては、血液中におけるガス気泡の非線形振動特性を解析し、検討を加えた。血液のレオロジ-モデルとして、ヘマトクリット(血液中に含まれる赤血球の体積割合)の影響を含む修正Cassonモデルを作成・提示し、それを用いて、気泡の振動に及ぼす気泡サイズ、ヘマトクリット等の影響を数値的に明らかにした。その結果、ヘマトクリットの増加に伴い、気泡の固有振動数が低下すること、気泡振動時の発生圧力が低下すること、等が明らかにされた。
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