研究概要 |
当初の遅れを完全に取り戻し,予想をはるかに上まわる画期的な成果が得られつつある。本研究によってこれまでに得られた新たな知見を以下に要約する。 1 陽電子は,積層欠陥エネルギ-の大きいAl(135erg/cm^2)では,塑性変形によって導入された転位を1本の完全転位(バ-ガ-ス・ベクトルa/2〈110〉)としてとらえるのに対し,積層欠陥エネルギ-の小さいAu,Cu,Cuー8at%Ge(それぞれ35,45,13,9erg/cm^2)では完全転位が拡張しているため2本のショックレ-部分転位(バ-ガ-ス・ベクトルa/6〈112〉)としてとらえることを見出した。この結果は,転位の拡張の有無や拡張様式を陽電子寿命法によって判定できることを示すものとして注目される。 2 陽電子寿命法により,次世代の軽量耐熱合金として注目を集めている金属間化合物TiAlにおいて,組成および変形温度の違いによって活動する転位種に明瞭な差が認められることを明らかにした。得られた結果は,これまでの電子顕微鏡を主体とした研究結果とよく対応している。 3 転位のバ-ガ-ス・ベクトルとその転位での陽電子寿命との間に明瞭な相関があることを明らかにし,その関係式をもとめ,さらに理論的考察を加えた。 以上の結果は,材料物性の分野において,転位を含む各種結晶の陽電子寿命によるキャラクタリゼ-ションという新たな応用の道をひらく一方,理論面では従来定説のなかった陽電子と転位との相互作用の解明に突破口をひらくものとして極めて重要な意味をもつ。
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