研究概要 |
オ-トクレ-ブを用いて目標反応(メタノ-ルのみを原料とする酢酸の一段合成)を高温(140℃)で行なったところ,ギ酸メチルおよびメチラ-ルの副生が著しく,温度の違いによる生成物の変化が顕著であることがわかった。反応をCO雰囲気下で行なったところ反応速度は約1/4に低下した。融媒活性種(配位不飽和錯体)にCOが配位することによる阻害効果と推定される。また,メタノ-ルの分解により反応中微量のCOが共存する可能性があるが,この結果から,本反応の経路としてメタノ-ルへのCO挿入による酢酸生成は考えにくい。配位子効果の観点から3種類の錯体[Ru(SnCl_3)_5L]^<n->(L=MeCN,PPh_3,n=3;SnCl_3^-,n=4)を比較したところ,Sn(II)6配位の錯体は,触媒活性が認められなかった。従って,メタノ-ルから酢酸を生成させるためには,中性配位子の存在が重要と考えられる。[Ru(SnCl_3)_5(PPh_3)]^<3->による反応を遊離のCl^-イオンを添加して行なったところ(Et_4N)Clの形で添加し,(Et_4N)(ClO_4)によりイオン強度をそろえた),酢酸メチルの生成が抑制され,ギ酸メチルが主生成物となった((Et_4N)Cl/Ru=0.7ー1.0,また(Et_4N)Cl/Ru=1.5では酢酸メチルの生成はほとんど観測されなかった)。前年度に得られた結果([Ru(SnCl_3)_5(PPh_3)]^<3->によるギ酸メチルの酢酸への異性化反応は,遊離のPPh_3の添加により阻害され,速度解析からPPh_3配位子の解離が予備平衡として含まれると推定)と合わせ,ギ酸メチルの活性化がソフトなルイス酸であるRu(II)(ソフトな塩基であるCーH結合部分と相互作用)およびハ-ドなルイス酸であるSn(II)(ハ-ドな塩基である酸素原子と相互作用)との多中心的相互作用より起こることが裏付けられた。
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