今まで二成分系ポリマ-ブレンドのスピノ-ダル分解過程の最中に形成した濃度ゆらぎを光照射し、分子鎖間の光反応を誘起し、スピノ-ダル構造に対する反応の効果について検討した。これらの結果によれば、高分子鎖間の反応が濃度ゆらぎを停止するのみならず、条件によっては反応が濃度ゆらぎに起源するスピノ-ダル構造を変化させてしまう結果をすでに報告した。 平成3年度では、二成分系ポリマ-ブレンド(A/B)の均一一相領域において、AーAあるいはBーBの光反応によって系中の不安定性を誘起した。結果として形成した濃度ゆらぎとモルホロジ-を位相差光学顕微鏡、画像解析システムやX線小角散貼法(SAXS)を用い、検討した。 試料としては、ポリブタジエン(PB)およびポリスチレン(PS)のオリゴマ-ブレンドを用いた。PB鎖間の架橋反応は254nmの光照射によって、PB鎖間の光酸化を通して行なわれた。一方、PS鎖間の反応はPS鎖上にラベルしたアントラセン環同士の光二量化反応によって誘起した。 一相領域でAーAとBーBの光反応を誘起した結果、次のことがわかった: 1)PB鎖間を光架橋する場合、PBの組成が多い(21/79)ブレンドにおいて大きなスピノ-ダル構造が発現され、その中にはさらに小さなドメイン構造が得られた。一方、PSの組成が多い(80/20)ブレンドの場合では、小さな変調構造が見られ、画像解析によって確認された。このようなモルホロジ-は多段階温度ジャンプによって得られたものに類似している。 2)アントラセンの光二量化反応によってPSのみを架橋した場合、PSーA/PB(70/30)ブレンドの一相領域で照射時間を30分から300分まで変化させても、系が分離せず、均一一相領域が保たれた。X線小角散乱法を用い、光照射したブレンドの散乱関数をOrsteinーZernike理論より、相関長(濃度ゆらぎの波長)を求めた。結果として、照射時間が長ければ長い程、スピノ-ダル温度(Tsp)が上昇するが、60分以上になると、ほとんど変化しなくなった。このことより、ガラス転移温度(Tg)の高い成分を架橋すると系の粘度が上昇し、濃度ゆらぎの成長が停止されると思われる。 3)相溶するポリマ-ブレンドにおいて、分子鎖間の非線形状反応を起こす場合、反応と拡散が結合し、反応拡散方程式の解は分岐する可能性が考えられるが、以上の結果から、PSA/PBブレンド系では、アントラセンの二量化反応によってTuring不安定性(自己組織化)が誘発されるよりも、形成した高分子網目の弾性エネルギ-が系の自由エネルギ-の増加に寄与した結果が得られた。
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