本研究の目的はミクロン領域の秩序性構造を有する多相系高分子材料の設計である。この目的を実現するため、二成分系ポリマ-ブレンドの相分離過程と分子鎖間の光架橋反応を利用した。光照射している間、ポリマ-ブレンドの熱力学的に解放系であるため、反応・拡散機構(反応が拡散過程と結合する)や対流などによる不安定性の発現する可能性が考えられる。本研究では、この問題を明らかにするため、上限臨界共溶温度(UCST)と下限臨界共溶温度(LCST)を有する3つのポリマ-ブレンド系を用い、X線小角散乱(SAXS)、光散乱および位相差光学顕微鏡の画像解析法により検討した。 1)ポリスチレン/ポリ(2ークロロスチレン)(PSA/P2CS): PSA/P2CSブレンドはLCSTを有する混合系であり、170℃以上になると相分離する。組成PSA/PVME(40/60)の試料を一相(167℃)からスピノ-ダル領域(193℃)まで温度ジャンプさせ、スピノ-ダル分解過程が進行している最中に試料にXeFエキシマ-レ-ザ-光を照射した。照射効果を検討するため、すべての試料を同一の熱履歴(193℃)に保った。結果として、レ-ザ-光照射することによって誘発したPSA鎖間の架橋反応がスピノ-ダル分解過程の濃度ゆらぎを効率よく停止したことがわかった。しかしながら、条件によっては反応がスピノ-ダル構造を変化させてしまう場合も観測された。すなわち、浅い温度ジャンプさせて照射した場合(185℃まで、5分間)、多重極大を示した光散乱強度の角度依存性が得られた。 2)ポリスチレン/ポリ(ビニルメチルエ-テル)(PSA/PVME): 反応に伴った不安定の時間発展は系の粘度に強く依存するため、ガラス転移温度のポリスチレン/ポリビニルメチルエ-テルの混合系を用いた。この場合、反応はPSA/P2CSブレンドと同様、PSA鎖同士の光架橋によって行われた。ここで、光源強度、熱処理、温度ジャンプ深さ、照射時間などの効果について検討した。結果として、同一の熱履歴に対してレ-ザ-光を短時間(10分)照射する場合とレンズでHg灯の光を集光して(4.4mJ/cm^2.s)照射する場合は、ほぼ同様なモルホロジ-が得られた。一方、温度ジャンプの深さや光照射した後、高温で熱処理などの実験結果から、本研究で用いた光架橋の方法では、かなり安定なモルホロジ-が得られることがわかった。 3)ポリスチレン/ポリブタジエン(PS/PBおよびPSA/PB): 今まで、スピノ-ダル領域内で過渡的な濃度揺らぎの発展の最中に光照射し、高分子鎖間の反応を誘発したが、PS/PBおよびPSA/PBブレンドでは、均一一相領域において光反応を起こした。PB/PS系の場合では、254nmの光によってPB鎖間の架橋反応は光酸化反応を経由して誘起された。PBの多い組成では、多重の特徴的長さ(MultiーLength Scale)を有する構造が得られた。PBの少ない組成は照射によって変調構造が得られた。一方、アントラセンの光二量化反応を通してPSA鎖を架橋する場合、相分離が見られず、SAXSの散乱強度より、求めた相関長は照射時間と共に増大するが、長時間にわたって照射すると、スピノ-ダル温度が一定値に収束する傾向が見られた。 以上、光照射した二成分系ポリマ-ブレンドにおいて得られた結果を総括すると: a)レ-ザ-を光源として用いた場合、得られた構造は従来のスピノ-ダル構造とアントラセンの無輻射遷移による温度勾配から起源した対流が自己組織化発現の原因であると考えられる。 b)水銀灯などの弱い光源では、スピノ-ダル構造が反応によって凍結され、ミクロン域の変調構造を有する高分子多相系が得られる。さらに、一相領域で反応させると、形成したNetworkの弾性エネルギ-が系を不安定な方向へ移動させ、相分離が誘発される。 c)アントラセン間の光二量化反応は非線形反応であるため、光照射したポリマ-ブレンドにおいてTuring不安定性の発現が期待されるが、この問題を明らかにするためには、Polymer Networkの弾性項をGibbsの自由エネルギ-に導入し、反応項を含んだ連続方程式を立て、線形安定解析法によって、反応しつつあるポリマ-ブレンドの不安定性を解析する必要がある。これらの研究は現在進行中である。
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