単分散の合成高分子のラテックス粒子(直径は1〜2μm)を合成し、イオン交換樹脂で精製した後、その希釈水溶液をカバ-ガラスに落として低温で乾燥する。この方法で粒子を一層に並べた試料の作成に成功した。これを光学顕微鏡のステ-ジに置き、光源上に厚紙を切り抜いた文字を固定し、粒子の結像作用を調べた。一視野に見える粒子の数は数千個以上で、その粒子の全てに同じ像が映し出されることを見い出した。これは1個の粒子については世界最小の光学レンズであり、一視野に関しては複眼レンズである。この粒子のレンズ効果は多層状態では観察されないことも分かった。一方、単分散の粒子が一層に密に配列した中に偶然的に1個の粒子が欠落した部分が時折観察される。この部分に焦点を合わせると、針穴写真機と同じ原理に基づき、粒子のレンズの場合に比べて数倍の大きさの像を映す興味ある現象も発見した。 粒子の並びは丁度昆虫の複眼の個眼(直径は約30μm)の並びに類似する。合成高分子ラテックス粒子の光学レンズの応用開発として、昆虫の複眼の模倣を考え、昆虫の複眼の光受容器の謎解きを試みた。まず、解析を容易にするために、1個のレンズの直径が約200μmの複眼レンズシ-トを作り、この2枚の組み合せによるモアレ縞による奇妙なレンズ効果を解明した。対称物を第1面の全てのレンズに倒立像で映し、これらを第2面で1個の像にまとめられる。この原理から、第2面はセンサ-群に置き換えられることが判明し、その上、曲面上のレンズの配列に関しても応用ができることが確認できた。曲面上への微小粒子の配置はラテックス粒子の使用が最適との結論を得た。昆虫の複眼の光受容器の解明や模倣は昆虫学のみならず、光学や工学分野の技術開発に大きな役割を果たすはずで、今後の科学として期待されるマイクロマシンの分野においても注目される課題を投げかけることができた。
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