研究概要 |
レニンは血圧調節を司るレニン・アンギオテンシン系でのキ-エンザイムである。最近血液中にレニンの不活性前駆体であるプロレニンの存在が明かとなってきた。しかもその血液中の濃度はレニンの4倍以上高いという報告もある。しかし、その生理作用、不活性保持機構等については、ほとんど明かにされていない。私達は最近、プロレニンの不活性保持機構を明かにする手始めとして、ラットレニンcDNAを動物細胞に組み込んでプロレニンの発現生産系を確立するとともに、プロレニンの生理的機能を明かにする手がかりとして、ラット顎下腺においてプロレニン放出促進物質の存在を観察してきた。本研究ではラット腎臓スライスおよびラットプレプロレニンcDNAを組み込んだ動物細胞(チャイニ-ズハムスタ-卵巣細胞)を用いたプロレニン放出促進物質(PRS)の生化学研究を通して、プロレニンの分泌調節機構の一端を明かにしようとした。 ラットの顎下腺50g(100匹分)より、ベンザミジンセファロ-スカラム、陽イオン交換カラム、電気泳動、ゲルロ過を組合せて、約200μgのプロレニン放出促進物質(PRS)を精製した。本研究では、精製を迅速に行うために、最終ステップ以外におけるPRSの同定はSDSー電気泳動による分子量28,000のバンドによった。その等電点は8.7、PAS染色で陰性であり糖鎖構造は持たないと思われる。現在、PRSの全アミノ酸配列は現在も分析中であるが、N末端側からLeuーSerーGluーGluーXー・・・・の4残基の配列を決定することができた。 5x10^<-9>MのPRSはラット腎臓スライスからのプロレニンの分泌を50%増加させたが、動物細胞からの分泌には何ら影響を与えなかった。一方、既に腎臓スライスからのプロレニン放出を促進することがウサギで報告されているベラパミル(カルシウムチャネルの阻害剤の1つ)については、1x10^<-4>Mの濃度で、ラット腎臓スライスからのプロレニン分泌を50%増加させ、動物細胞からプロレニン分泌を20%減少させた。 以上本研究により、分子当たりのプロレニン分泌促進はPRSの方がベラパミルより約20,000倍高く、またPRSはプロレニンcDNAを組み込んだ動物細胞よりも腎臓スライスに対して、より特異的に作用することが明らかにされた。
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