不飽和油脂のリン脂質による過酸化防止を試み、ホスファチジルエタノールアミン(PE)やホスファチジルセリン(PS)などのアミノリン脂質の抗酸化効果を試験した。PEあるいはPSを500ppm添加した高度不飽和油脂(シソ油など)では、過酸化物価とカルボニル価の上昇が抑制されPEとPSが不飽和油脂の過酸化に対しビタミンEとともに強い酸化防止剤として機能することを明らかにした。この時、PEとPSはいずれも、油脂の酸化に伴うトコフェロールの減少を防止することが明らかになった。天然リン脂質が、高度不飽和油脂の内在性トコフェロールを利用しつつその酸化安定性を向上できることが明らかにされたので、リン脂質自体の実際の食品中での抗酸物化質としての有効性は高いと思われた。この様な知見は生体膜脂質の酸化防止の面からも興味が持たれた。すなわち、食事的に膜リン脂質組成を修飾できるのであれば、トコフェロールとの至適なアミノリン脂質比を創出することで膜の酸化防止能の向上が図れると考えられた。そこではじめに、リン脂質リポソームの構造の差による過酸化の受け方の違いを検討した。その結果、二重層よりヘキサゴナル(HII)構造でリン脂質の過酸化は進行しやすいことをはじめて明らかにした。例えば、卵黄リン脂質では、PC/PE比を変えることで二重層とHII構造をとらせることができるが、明らかにHII構造の場合に二重層構造の時よりヒドロペルオキシドの多いことがわかった。また、同一PEで二重層とHII構造をとらせた場合にも、HII構造の時のヒドロペルオキシド生成は有意に多かった。本研究では、アミノリン脂質が不飽和油脂の過酸化を効果的に防止できることを明らかにするとともに、実際の膜モデル系においても、とくに脂質過酸化は膜融合や相分離あるいはチャンネル機構などの動的状態にある時に進行しやすいことをはじめて明らかにした。
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