研究概要 |
本研究は、非破壊多成分同時分析が可能な核磁気共鳴法の特性を利用して、新しい観点から生体機能調節物質を効率良く見出すことを目的とするものである。本年度は、昨年度の実績を踏まえ、健康に良いとされ飲用されている「黒酢」に注目した。黒酢はその伝統的製造方法が約200年間引き継がれている米酢である。ラットを用いた実験により血圧を下げるなどの効果が報告されているが、化学的にその原因物質が明らかにされている訳ではなく、詳細な成分分析も現在まで行われていない。 食酢の場合と同様にして、そのまま ^<13>CーNMR測定に供した結果、黒酢は大変特徴的なスペクトルを与えた。有機物については酢酸、乳酸が多く、またグリセロ-ル、アセトインも主要成分であることが判明した。米酢の既知成分に帰属できない大きなシグナル(δ 19.0,20.1,73.4,73.9)を指標に分画を進め、この未知物質は2,3ーbutandiol(DL体,メソ体の混合物)であることが明かとなった。その含量は0.2〜0.4%にものぼり、黒酢の主成分であることが明かとなった。DL液とmeso体の比は、 ^<13>CーNMRスペクトルから求め、絶対配置の決定は、pーブロモフェルホウ酸エステルに誘導し、その光学純度から求めた。DL:meso≒1:1、D体が約9割、L体が約1割であった。数社の黒酢のスペクトルはそれぞれ異なり、製法の違いがそのスペクトルから推察することができた。 黒酢に0.4%も含まれている2,3ーbutanediolの生理作用についての報告はなく、純粋な試料を用いて動物試験をすることで、黒酢の有効成分であるかどうか明らかにできる。もし、2,3ーbutanediolに何んらかの作用が見出されれば、本研究の一つの目的が達成されたことになり、我々が進めている ^<13>CーNMRによる成分研究は単なる食品の成分研究ではなく、生体が本来保持している生命維持機構に作用する新しい生体機能調節物質を、食品から効率的に見出す新しい方法となるものと期待される。
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