研究概要 |
平成4年度は、(1)樹木のケミカル・コミュニケーッション物質cis-3-hexen-1-olの初期濃度5ppm雰囲気下に暴露したシラカンバ葉中で増大するフェノール、3,4'-Dihydroxypropiophenone-β-D-glucopyranoside(DHP-Glu)の、マイマイガの幼虫の忌避性に関係するとみられる3,4'-Dihydroxypropiophenone(DHP)を塗布した葉による飼育試験、ならびに(2)シラカンバ・ウダイカンバ冬芽精油成分の褐班病病原菌に対する抑制効果試験を行った。(1)については、忌避性に関係するとみられるDHPについて、いろいろな濃度のDHPを塗布したポプラ葉でマイマイガを飼育した。対照区に比較してやや忌避性が認められた2、000ppm濃度を塗布した葉で飼育したマイマイガは、2齢段階までに100%死亡した。しかしながら、1/2濃度の1,000ppmを塗布したものは、死亡率は対照区よりも極端に低く、1000ppmと対照区の中間の100〜500ppmはその中間の値を示した。DHP-Gluはシラカンバの葉中に普遍的に存在する物質であり、この普遍的物質の増大によって摂食者にダメージを与えるのは、生理活性作用による摂食者に対する防御であることから、被食者であるシラカンバの自己防衛戦略として興味ぶかい。さらに、注目すべきは、摂食者であるマイマイガ孵化幼虫が、始めて葉を摂食したときDHPを摂取することにより生残率を高め、特に致死量の1/2の濃度1,000ppm塗布区では対照区の3倍の生残率を示したことである。孵化幼虫の解毒、耐性獲得に関する興味ある課題が提起された。 また、(2)のカンバの冬芽精油成分の褐班病病原菌に対する抑制効果試験については、シラカンバには含有せず、ウダイカンバに含有しているメチル・サリチレイト、ベンズアルデヒドなどに強い菌の発育を抑制する効果があり、気相下でウダイカンバの精油成分がシラカンバ葉の褐班病病原菌にアレロパシー効果があることが証明された。
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