研究概要 |
カンバ類の冬芽精油成分は、種類ごとに特徴ある香気成分を有する。これらの香気成分は、気相下において成長促進・抑制の生理活性を示すものがあることを見い出したことから、本研究は、香気成分の気相下における生理活性、樹木のケミカル・コミュニケーションなどについて萌芽的研究として実施した。 香気成分の生理活性については、個体レベル、細胞レベル、細菌に対する抑制についての実験を行い、所期の目的を達成することができた(渡邊:1991,井出・渡邊:1992,渡邊・高橋:1993)。また、樹木ののケミカル・コミュニケーションについての研究は、化学成分の分析と合成についての研究協力をえて、シラカンバが食葉性昆虫から攻撃を受けた場合に発するケミカル・コミュニケーションについての実験手法を確立するとともに(渡邊ら:1990,菅原ら:1992)、樹木のケミカル・コミュニケーションに関する一つの物質として、cis-3-hexen-1-olを特定することができ(渡邊ら:1990)、また、シラカンバ葉が特定濃度のcis-3-hexen-1-olの雰囲気下に置かれた場合に増大する食葉性昆虫忌避物質を特定し(菅原ら:1992)、これを合成して(Mori et al:1992)、食葉性昆虫の摂食の嗜好性、忌避性、毒性について明らかにした(渡邊ら:1992,1993)。食葉性昆虫の摂食嗜好性・忌避性・毒性の特性が明確化されることによって(渡邊:1993)、樹木のケミカル・コミュニケーションと食葉性昆虫の相互関係は、消費者である動物の耐毒性(解毒性)の獲得機構に極めて興味ある問題を提起し、これが解明は今後の課題である。
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