研究概要 |
ヤドリギとその宿主細胞との相互作用を解明する目的で、両者の培養系への導入を試みた。その結果、ヤドリギの仮根と宿主であるエノキは共にベンジルアデニン0.1ppm、ナフタレン酢酸1.0ppmを含み、イオン強度を半分にしたMurashigeーSkoog(MS)改変培地を用い、28℃、12時間の明暗周期、光度が約2,5000luxの条件下で培養が可能であることがわかった。そこで、この条件下でヤドリギの種子を無菌的にエノキカルスの上に移植し、in vitro系でのヤドリギの根端とエノキカルスとの接触を試みたところ、両者は共に接触阻害を起こさずに成長し続け、寄生を無菌的に成立させることに成功した。以上の結果から、上記の系を用いることにより異種植物細胞間相互作用の分子レベルでの研究の基礎が整えられた。 次に、ヤドリギが宿主の植物に寄生する初期段階には、種子が宿主植物の表面に長期間接着することが不可欠であるので、ヤドリギ果実中に含まれるこの接着物質の性質解明を試みた。その結果、ヤドリギの果実の中には極めて粘度の高い高分子化合物が存在することがわかった。この粘質物の単離・精製にはじめて成功し、ビスカンと命名した。ビスカンは化学的にはセルロ-ス(66%)とヘミセルロ-ス(34%)の複合体であり、その凍結乾燥前後のX線回折図を比較したところ、凍結乾燥によりわずかに非晶性がくずれるが、いずれも明瞭な回析を示さず、全体として非晶の状態であることがわかった。また、ビスカンの形態を原子間力顕微鏡により観察し果、ビスカンは明らかに繊維状を呈し、その太さは1.7nmであることがわかった。さらに、固体高分解能NMRスペクトルを測定したところ、ビスカンは非晶セルロ-スとヘミセルロ-スとからなることが確かめられた。以上のことから、ヤドリギはセルロ-スとヘミセルロ-スからなる複合体を天然の接着剤として利用することにより、宿主植物への寄生を開始すると結論された。
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