【目的】側線器の求心系神経の活動が随意筋の収縮活動を関連して抑制されることが電気生理学的に知られており、これは自己の遊泳によって生ずる過度の情報を押えるためであると考えられる。従って、高速遊泳中あるいは遊泳加速中に側線器機能が休止する可能性がある。これを実際に遊泳魚で証明するために、電極を埋め込んだ魚の遊泳中に側線神経応答を記録した。 【実験方法】コイの頭頂部から2本の銅線電極を眼球裏側に抜けるように挿入して先端を眼上管側線神経に引っ掛けた。電極は頭頂部でユニデントSMFPで固定した。このコイを小型回流水槽で種々の速度で泳がせた時の側線神経のマスレスポンスを生体電気用増幅器を介してサ-マルレコ-ダで記録し、同時に遊泳動作をビデオ記録した。回流水槽の魚遊泳部をシ-ルドし、電気的に独立させることで電気的ノイズを除去した。 【結果】60Hzのノイズ(0.01mV)が神経応答記録に混入し、魚の呼吸運動と同調した基線の周期的シフト(0.1mV)があったが、いずれも神経応答(最大0.5mV)の判別には支障がなかった。対水遊泳速度が84cm/s(全長比6.2倍)の範囲までは側線応答の休止は見られなかったが、その流速の中で魚が突進したときに側線応答が完全休止し、最大休止時間は0.5秒であった。最大遊泳速度に達する以前に側線神経応答が休止することが実証された。魚体に比較して水槽が小さかったために、速度と加速度のいずれが側線応答休止に効いているかまだ明らかにできていない。実験精度を高めるためにまだ実験継続中である。
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