研究概要 |
当該年度は、ウバガイ、ホタテガイ、アカザラガイ、ムラサキイガイの平滑筋から「留め金タンパク質」候補の調製を行なった。調製は、先ず脊椎動物平滑筋の「留め金タンパク質」候補であるカルデスモンの調製法を適用した。しかしながら、この方法は90〜100℃加熱処理による精製操作を含み、水産動物のような熱安定性の劣る試料には不適当と思われ、事実この方法では活性のあるタンパク質は得られなかった。そこで加熱処理しない方法を種々検討した結果、貝類のトロポニンの調製法(Ojima&Nishita(1986)J.Biol.Chem.,261,16749ー16754)を改変することによりアクチン結合性のタンパク質が得られることが分かった。即ち、本法で抽出したトロポニン画分を40〜60%飽和硫安で分画し、さらにpH4.5で等電点沈澱した結果、この上澄みに10mM以下のKClに不溶性でFーアクチンと結合して著しい濁度を生じるタンパク質(ABPと称する)が得られることが分かった。ABPの分子量は上記の平滑筋いずれにおいても約160Kと概算され、脊椎動物平滑筋のカルデスモン(140K)と類似した。そこで、これらの平滑筋のうち特に含量の多かったウバガイ平滑筋(100gの筋肉から約25mg得られた)からABPを精製し、その生化学的性質を検討した。ウバガイ平滑筋のABPには微量の300Kおよび35Kのタンパク質が混入していたが、これらはDEAEーToyopearlカラムクロマトグラフィ-で分離できた。精製したABPのアクチンとの結合の化学量論を濁度法および超遠心共沈法で検討した結果、ウバガイABPはFーアクチンと約7:1のモル比で結合することが示された。さらに、ABPーFーアクチン複合体の電子顕微鏡観察の結果、ABPはFーアクチンをside by sideで束形成させていることが明らかになった。また、免疫学的研究の為の抗ABP抗体の調製を行ない、現在この抗体を用いて各種二枚貝平滑筋のABPとの免疫学的相同性を検討している。
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