研究概要 |
初年度は「留め金タンパク質」の候補としてカルデスモン様のタンパク質の調製を試み、ウバガイの平滑閉殻筋および平滑斧足筋から分子量160,000(160K)の、Fーアクチンと結合して著しい濁度を生じるタンパク質(ABPと称する)が得られることを明かにした。本年度は先ずABPの生化学的特性をカルデスモンと比較検討した。その結果、ABPはカルデスモンのようなCa^<2+>ーカルモデュリンに依存したFーアクチンとのフリップ-フロップ相互作用を行なわないこと、プロテア-ゼ消化性およびアミノ酸組成はカルデスモンと明かに異なることが明らかになった。従って、ABPはカルデスモンとは別のタイプのアクチン結合タンパク質であると考えられる。さらに、ABP様のタンパク質の他種二枚貝における分布を調べた結果、アカザラガイ、ホタテガイ、ムラサキガイ、チョウセンハマグリの平滑筋に存在が認められ、それらの分子量はいずれも100Kー300Kであった。これらのタンパク質がキャッチ収縮に関わる「留め金タンパク質」であるかどうかについては、今後生理学的な検討が必要であるが、例えば、能動的な筋収縮後にこのタンパク質がアクチンフィラメントを固定しキャッチ状態を維持するという機構も考えられる。一方、キャッチ現象と収縮のCa^<2+>調節との関連からトロポニンについても研究し、アカザラガイのTnIに関してはそのCー端側の17K領域に他種の動物のTnIとの相同の構造が存在すること、また、Nー端側の35k領域には他には見られない極めて特異な構造をもつことが明らかになった。さらに、トロポニンとは別に分子量19KのTnIと40KのTnTのから成る2成分複合体がアカザラガイ閉殻筋に存在することが明らかになり、この複合体がカルモデュリンのようなCa^<2+>結合タンパク質の関与のもとにトロポニンとは別の調節系として機能する可能性についても示唆された。
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