研究概要 |
積雪地帯における牧柵は,複雑で起伏の多い山地傾斜地に設置されるために積雪による牧柵の損傷(雪害)が激しく,この牧柵の補修作業に多大の経費を要し,公共牧場などの牧場運営上,肉用牛生産の低コスト化を妨げる一因となっている。このため,積雪に対して損傷の少ない耐雪型牧柵を開発し,その実用性を検討し,低コスト肉用牛生産を図るための放牧施設面からの放牧技術の改善策を講じる必要がある。 積雪地帯用の牧柵のあり方を既往の文献などから整理した結果,積雪に対して損傷の少ない耐雪型牧柵は,放牧期間には家畜に対して十分な隔障機能があり,積雪期間には積雪の荷重を受けない構造条件が必要であることを明らかにした。この耐雪型牧柵の設計は,山地傾斜地のように複雑で起伏の多い放牧地でも機能することを考慮して行った。比較試験として,慣行的な有刺鉄線牧柵も同時に設置して,資材・構造・施工面,放牧利用面,維持管理面で望ましいものを検討することにした。 有刺鉄線3〜4段張りで慣行型牧柵と,高張力綱線3〜4段張りの耐雪型牧柵の2種類をそれぞれ山地傾斜地および林内草地に設置した。施工費は慣行型牧柵が637〜685円/m,耐雪型牧柵が130〜322円/m,維持管理費は前者が6.8〜14.9円/m,後者が1.7〜2.2円/mであり,耐雪型牧柵の方が慣行型牧柵よりも施工費・維持管理費とも格段に低コストであることが判明した。また,放牧利用の面から牧柵の隔障機能を比較するために牛群放牧を行い,家畜行動調査や草地管理性を日射計による日射量を測定しながら試みた。その結果,柵外採食行動に伴う牧柵の構造変化として,慣行型牧柵に架線の弛みが生じたけれども,耐雪型牧柵では電気牧柵としたものでは構造変化がほとんどなく,後者は放牧利用中の隔障機能が極めて高いことも判明した。また,耐雪型牧柵を電気牧柵とすれば,家畜行動や草地生産性の調査視察から放牧面積を小さく区切った放牧により草地生産性の向上につながるように思われた。
|