牛T細胞抗原レセプタ-(TCR:α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖)遺伝子を牛末梢血リンパ球および牛胸腺細胞より作成したcDNAライブラリ-より分離し、その構造を解析した。 1.牛TCRα鎖は、30個のcDNAクロ-ンの内7クロ-ンが完全長のVーJーC構造を示し、残りは不完全なV領域を有していた。α鎖のC領域は1種類であり、140個のアミノ酸残基からなっていた。 2.牛TCRβ鎖は、38個のcDNAクロ-ンの内11クロ-ンが完全長のVーDーJーC構造を示し、DNA塩基配列の相同性から9群のサブファミリ-に分類された。各サブファミリ-は、ヒト由来TCRβ鎖Vファミリ-にそれぞれ高いホモロジ-を示した。牛TCRβ鎖のC領域は2種類存在し、178個のアミノ酸残基からなっていた。 3.牛TCRγ鎖は、9クロ-ン分類され、VーJーCの構造を有していたが、完全長の遺伝子は得られなかった。γ鎖C領域は3種類分離されアミノ酸も222個、211個および194個とさまざまであった。 4.牛TCRδ鎖は、3クロ-ン分離され、VーDーJーCの構造を有していた。δ鎖のC領域は155個のアミノ酸残基からなっており、マウス、ヒト由来に比べ羊由来C領域に高いホモロジ-を示した。 5.牛TCR遺伝子解析中、偶然牛乳酸脱水素酵素遺伝子(LDHーA)を分離した。LDHーA遺伝子は、332個のアミノ酸残基をコ-ドしており、牛TCRα鎖と低いホモロジ-を示した。本遺伝子は、遺伝子発現検索時のコントロ-ルマ-カ-として有用であった。 6.散発型(T細胞系)白血病牛よりT細胞系腫瘍細胞を樹立し、TCR遺伝子の発現と構造を解析した。仔牛型、胸腺型、皮膚型由来腫瘍細胞は、γ鎖とδ鎖を多く発現していたが、その構造は、不完全であり遺伝子の再構成によるメッセ-ジではなかった。本研究で得られたTCR遺伝子は今後獣医免疫学分野での活用が期待される。
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