耳石・骨や歯は、大量のカルシウム塩を含むため硬く、生鉱物と総称される。本研究では、ピロアンチモン酸法を用いて代謝的に活性なカルシウムを沈澱させ、薄切の支障となる貯蔵性のカルシウム塩は塩化アンモニウムで選択的に脱灰して、これらの組織における活性なカルシウムの分布をしらべ、以下のことが明らかになった。 1.従来のピロアンチモン酸法は、固定が悪く沈澱の局在もあまり正確でないが、ピロアンチモン酸にグルタールアルデヒドを併用すると、固定が改善され沈澱の分布がより正確になることが分かった。 2.塩化アンモニウムで耳石や幼若な骨は脱灰されたが、歯はほとんど脱灰されなかった。塩化アンモニウムによる脱灰後も沈澱はよく保存され、沈澱の局在に影響は見られなかった。 3.放射性カルシウムを投与した動物を用い、塩化アンモニウムによる脱灰を液体シンチレーションカウンティングでしらべた。2週間で、骨から50-90%程度の放射性カルシウムが脱灰された。 4.アマガエル内リンパ嚢の炭酸カルシウム結晶周囲に、カルシウムを含む沈澱が観察された。この沈澱は結晶の成長時に増加し、結晶表面でのカルシウムの出入りと結晶の付加成長が推測された。 5.哺乳類内耳の耳石周囲、耳石膜に多量のカルシウムを含む沈澱が見られた。また、耳石周囲に一致して、メテナミン銀法で強陽性を示す物質が存在し、この物質が結晶の生成に関与している可能性が推測された。 6.骨では、骨芽細胞の粗面小胞体、破骨細胞の刷子縁や空胞などにカルシウムの沈澱が多量に観察された。
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