研究計画に従って、本年は以下の3つの研究成果をあげた。 1.錐体視物質のアミノ酸配列の一部を合成し、これを抗原としてマウス及びウサギから抗体を得た。得られた抗体の免疫特異性を生化学的に解析した後、種々の脊椎動物の網膜を用いて錐体外節の免疫反応を検索した。この結果、錐体視物質の抗体は全ての脊椎動物と反応したことから、錐体視物質の相同性が明らかになった。現在、他の抗体も検索中であり、来年度も研究を継続する。 2.ヒト杆体オプシンを認識するモノクロ-ナル抗体MAb15ー18は、冷血動物のある種の錐体外節と結合することが報告されている。そこでこの錐体の種類を同定するため、細胞内記録及び細胞内染色の解析から3種類の錐体を形態的に同定出来るカメ網膜を用いた。この結果、MAb15ー18はカメ網膜の杆体の他に、緑錐体と結合することが明らかになった。これは杆体オプシンが昆虫からヒトまで構造がかなり保存されているのに比べて、緑錐体オプシンは脊椎動物内でも種特異性があることを示す重要な発見である。研究成果は公表・発表した。 3.このように脊椎動物の錐体は、視物質の抗体を用いて識別できる。一方、カメの錐体視細胞は油滴により一義的に同定可能であることから、錐体にHRPを細胞内染色し錐体間結合を電顕解析した。この結果、これまで細胞内記録などで報告されている錐体間の結合をシナプスレベルで明らかにした。 本年度は当初計画以上の研究成果をあげた。次年度はこの研究成果を元にさらに視物質の系統進化の問題も解析する。
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