網膜における色情報抽出の神経機構を解明するため、錐体視細胞を免疫組識化学的に解析した。これまで同定が極めて困難であった霊長類の網膜を始め、多くの脊椎動物の錐体を比較系統的に調べた。 初年度は3種の碓体を認識する抗体を作製した。ヒト錐体オプシンのN端アミノ酸配列を合成し、これを抗原としてウサギ及びマウスに免疫してポリクローナル抗体を得た。赤及び緑錐体オプシンのアミノ酸配列はほぼ相同であるため、両者を識別する抗体は出来なかった。さらにロドプシンのN端を抗原とする抗体も作製し、比較検討のためロドプシンの188-202番目に抗原決定基を有するモノクローナル抗体(MAb15-18)を用いて、錐体を形態学的に同定出来るカメ網膜を解析した(発表済み)。 次年度はヒト青錐体オプシン及び赤/緑錐体オプシンを認識する抗体(PAb Hu-BNとPAb Hu-R/GN)を用いて、これまで顕微分光法や細胞内記録などで解析されてきた、種々の脊椎動物の錐体視細胞を調べた。得られた抗体は、カエル・カメ・トリ・サル・ヒトなど、両生類以上の脊椎動物の錐体外節を例外なく認識したが、魚類には全く免疫反応を示さなかった。この結果は、これまで色覚の研究に大きな貢献をしてきた魚類の錐体オプシンが、両生類からヒトまでの錐体オプシンと大きく異なっていることを示唆する重要な所見である。(論文準備中)。これらの新しい知見をもとに、ニホンザル及びアカゲザルの錐体を解析した結果、1)これまで網膜の中心かには青錐体が存在しないと考えられてきたが、極めて小数の青錐体の存在が確認された。2)報告されている青錐体の格子状の配列はごく一部に限局されており、赤/緑錐体と同様にランダムな配列を示した。以上の研究成果はヒトの色覚の神経機構の解明に大きく貢献する重要な発見である。
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