研究概要 |
1.今までの動物実験の結果からヒト中枢神経系にのみ感染する腫瘍ウイルスであるPapovavirus JCがヒト脳腫瘍の原因と何らかの因果関係があるか否かを検討した. (1)JC virusゲノムの主要部位5箇所につきprimerを作成した:(1)調節領域,(2)RB蛋白結合領域,(3)p53結合領域前部,(4)p53結合領域後部,(5)Virus外郭蛋白領域. (2)JC virus感染のあるヒト脳組織,およびJC virus誘発ハムスタ-髄芽種(Medー1)より抽出したDNAを上記5箇所についてPCRを行ったところ全ての組み込みを認めた. (3)ヒト脳腫瘍生材料(glioblastoma 3,malignant astrocytome 3,astrocytoma 2,metastatic lung cancer 23,medulloblastoma 1)ではJC virusゲノムはいずれにおいても陰性であった. 以上の成績よりJC virusの感染性をPCR法にて容易に検出できるシステムが確立した.ヒト脳腫瘍にはJC virusゲノムは検出されなかった. 2.DNA tumor virusesの腫瘍誘発機構には癌抑制遺伝子産物とvirus蛋白と結合することが最近注目されてきている.しかしJC virusについては不明である.そこでJC virus T抗原と癌抑制遺伝子産物との関連について免疫沈降法にて検索した. (1)JC virus誘発脳腫瘍Medー1にはT抗原が存在することを抗T抗体を用いた免疫染色法にて確認した.また上記のPCRを用いた検索からMedー1細胞にはRB結合領域とp53結合領域とが組み込まれていることを確認した. (2)抗RB抗体および抗p53抗体を用いた免疫沈降法にてJC virus T抗原はRB蛋白およびp53との両方と結合して複合体を形成していることが判明した. 以上の成績よりJC virusによる癌化機構にはウイルス蛋白と細胞性癌抑制遺伝子産物との結合が重要である事が示された. (これらの結果を第11回国際神経病理学会,第8回国際脳腫瘍研究回において発表した).
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